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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)9349号 判決 1971年8月30日

原告 株式会社沼部産業

右代表者代表取締役 鈴木洪子

右訴訟代理人弁護士 今泉昌治

被告 斉藤藤市郎

右訴訟代理人弁護士 成田宏

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し、一〇〇万六〇〇〇円およびこれに対する昭和四五年七月一日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、請求の原因として、

一  昭和三四年八月二六日、訴外斉藤昭辰は訴外鈴木秀生に対し、七〇万円を利息年一割八分、弁済期昭和三五年八月二五日と定めて貸渡した。

二  右債務の担保として、債務者鈴木秀生はその所有にかかる別紙目録記載の不動産につき債権者斉藤昭辰に対し抵当権を設定し、被告は、前同日、右斉藤との間で連帯保証の約定をした。

三  昭和三六年八月七日、原告は本件不動産を訴外鈴木秀生から買受けた。

四  昭和四二年八月二八日、訴外斉藤昭辰は、前記貸金の元利金回収のため抵当権を実行し、本件不動産は競売に付せられたので、原告は、昭和四五年五月二三日、右斉藤との間で債務額を一〇〇万六〇〇〇円に協定の上、債務者である訴外鈴木秀生に代位して弁済した。

五  本件不動産買受に際し、訴外鈴木は右債務は完済したと称し、原告はこれを信じて買受けたものであり、また被告という連帯保証人の存在することも知らなかったものであるから、原告はこれを支払うべき義務がなかったが、競売阻止のためやむを得ず代位弁済したのである。

六  よって、昭和四五年六月二七日被告に対し右金額の支払を催告し、右は同月三〇日到達したが、被告は応じないので、本訴提起に及んだ。

と述べ、被告の仮定的主張につき、「本件については、民法第五〇一条第二号の適用あるものでなく、最高裁判所第二小法廷昭和四二年九月二九日判決のように、民法第三七二条第三五一条を準用して、同第四五九条ないし四六二条が準用されるべきであり、むしろ民法第五〇〇条が係列的に考えられるべきものである。」と答えた。

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、請求原因事実に対する答弁として、「第一項は不知。第二項中、抵当権関係は不知。被告の連帯保証については否認する。第三項ないし第五項は不知。第六項は認める。」と答え、仮定的主張として、「かりに、被告が原告主張のとおり連帯保証人となり、かつ、原告がその主張のとおり抵当物件の第三取得者として昭和四五年五月二三日債権者である訴外斉藤昭辰に対して代位弁済したとしても、民法第五〇一条第二号により、原告は被告に対して代位弁済の効果を主張しえない。」と述べた。

理由

原告主張の事実関係からは、訴外斉藤が債権者、訴外鈴木が債務者、被告は保証人、原告は抵当権の目的である不動産の第三取得者ということになる。そして、原告は、債務者のために弁済をなすにつき正当の利益を有したのであるから、民法第五〇〇条により、弁済によって当然債権者に代位することとなるのであるが、この場合の保証人と第三取得者との優劣に関しては、被告主張のとおり民法第五〇一条第二号の明文があり、第三取得者である場合は、保証人(連帯保証人であっても、変りはない。)である被告に対しては、代位弁済の効果を主張しえないものと言わなければならない。けだし、第三取得者は、その取得の時に抵当権が設定されていることを知っていた以上、債務者が弁済しない限り担保権の実行あるべきことをあらかじめ覚悟しているべきものであるし、また、代価弁済や除の制度を利用する便宜もあり、取得が有償の場合代価支払を保留する自由も残されているに反し、保証人は債務者が無資力に陥れば常に損失を受ける地位にある。そこで、相互の求償関係においては保証人を第三取得者よりも保護して、一定の要件の下に保証人は第三取得者に対して代位しうるが、第三取得者は保証人に対して代位しえない、と定めたのが、民法第五〇一条第一号・第二号の法意なのであるから、原告主張のように、債務者が債務が完済されているといつわったのを信じた等の事情があっても、自らの不明というに止まり、右の結論を左右することはない、というべきである。

原告は、これに対して、最高裁判所第二小法廷昭和四二年九月二九日判決を引用して反論するところがあるけれども、右案件は、債務者のために物上保証として抵当権を設定した不動産所有者がその不動産を第三者に譲渡し、その第三取得者が代位弁済した場合の債務者に対する関係での求償権の範囲に関するものであって、債務者自身が抵当権を設定した不動産に関し、また債務者本人にでなく保証人に対しての求償に関する事件である本件とは、事案を全く異にし、適切を欠く。また、民法第五〇〇条によるべしとの主張も、右のように、民法第五〇一条第二号の適用を論じること自体既に右第五〇〇条の適用を前提にしているのであるから、理義貫徹せず、被告主張を十分に駁しえているとは言えない。

そうすると、原告の請求は、主張のとおりの事実関係があったと仮定しても、その主張自体理由がないことになる。よって、被告の独立の防禦方法として前記仮定的主張の可否について中間判決をするため口頭弁論を経たに過ぎないのであるけれども、本訴請求全部を棄却するとの判決に導かれることになる。

よって、訴訟費用については敗訴の当事者である原告の負担として、主文のとおり判決する次第である。

(裁判官 倉田卓次)

<以下省略>

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